1. 第十四回文学フリマ出展情報

    5/6(日)、東京流通センター 第二展示場(E・Fホール)にておこなわれる即売イベント「文学フリマ」に出展します。

    サークル名/BLANK MAGAZINE

    ブース/1階 E-04

    《出展作品》

    ■中編小説『ジェンガの日々』(文庫判160ページ) ¥500

    郊外の大学に通う木曽 君と皐月 心と増井 友の3人は、ゆったりとダベる為の集まり「ゲーム同好会」を設立する。
    しかし、「ある事柄」をきっかけに増井 友が失踪してしまう。
    2年次になり、木曽君と皐月心はメンバーが欠けた状態のまま「同好会設立1周年パーティ」を行なう。欠落感のままに取り出した「ジェンガ」を引き金に、二人の関係が崩れていく——。
    願望と怠惰と運命が交差する青春劇。

    小説/吉永勇輝
    デザイン/野条友史

    ワンコインなので、BLANK MAGAZINE入門編としてどうぞ。在庫残りわずかです。



    ■BLANK MAGAZINE SHORT COLLECTION BOOK VOL.03(A5判16ページ×8冊+BOX)  ¥1,000

    BLANK MAGAZINE×イラストレーション。
    イラストのテイストに合わせた8の短編小説ZINEをBOXでまとめました。

    《収録小説》

    『廃島譚』……………イラスト:加瀬透(@KASETORU)
    『きらめき』…………イラスト:少年アヤ(@omansiru)
    『マナの娘』…………イラスト:進藤こはる(@scoharu)
    『ゆらめき』…………イラスト:飴タクロウ(@ametakuro)
    『まほうがことば』イラスト:松代和徳(@macchiro_)
    『水道について』……イラスト:はやしあおな(@AonaHayasi)
    『帰路』……………イラスト:辻井希文(http://kifumitsujii.jugem.jp/)
    『言葉と海』…………イラスト:野条友史(@yujinojo)

    小説/吉永勇輝
    デザイン/野条友史

    八冊+外箱で¥1,000と、ZINEとしては破格の安さ。イラストと小説の関係を楽しみたい人向け。



    ■短編集『エポック・メイキング』(A5変形判98ページ) ¥1,000

    「エポック・メイキング」、それは人生を大きく変えるもの。言葉。見えないもの。
    順風満帆な恋人との幸福な生活を送る僕だったが、次第に暗雲が立ちこめる。恋人のお腹が膨らむ一方で、シミのように「エポック・メイキング」という言葉が見え隠れしてくるのだ。
    それはどういうことなのだろう。革命?変身?
    恋人と過ごす今が幸福なのだ、そんなものはいらないと考える僕にもやがて「エポック・メイキング」がやってくる。

    表題「エポック・メイキング」を含む3編の短編を収録した《すべての風景が変わる》黎明と終末のボーイミーツガール&不条理短編集。

    小説/吉永勇輝
    デザイン/野条友史
    イラストレーション/松代和徳

    どれか一冊だけ買うならこれ。ぜひ手に取ってご覧ください。



    ■文学フリマ非公式ガイドブック 小説ガイド(新書判56ページ) ¥200

    制作/文学フリマ非公式ガイドブック小説ガイド編集委員会
    デザイン/野条友史
    編集補助/吉永勇輝

    おもにデザインを担当しました。文学に興味のないあなたも、創作文芸の世界をちょっと覗いてみては?

    以上の四点を出展します。いずれも手売りゆえの文フリ特別価格です。

    告知のしてあった新刊『マダラグラム・ポッセカット』は、落としてしまいました。もし楽しみにしていた方がいたら、すみません…。現在鋭意制作中で、近々お披露目できると思います。小説、デザインともども大きな手応えを感じている長編作品なので、ぜひお楽しみに。

    それと、文フリ新刊紹介ページ「文学フリマ小説棚」も運営しております。文フリで販売される本の一部を閲覧できるのでぜひご覧ください。

    もちろんサークルの方の新刊情報もお待ちしてます。イベント直前は閲覧数が伸びると思うので、ぜひ活用してください。

    それでは、5月6日、平和島の戦場で待ってます。

     


  2. 文フリ新刊「マダラグラム・ポッセカット murderergram possecut」試し読み(intro+info)

    タイトル:マダラグラム・ポッセカット
         murderergram possecut
         詩的殺人者 音韻図案録


    目次

    ■intro.
    ■STAGE1 マダラグラム・セルフライム
    ■STAGE2 マダラグラム・ワックライム
    ■STAGE3 マダラグラム・パイプカット
    ■STAGE4 マダラグラム・スターダスト
    ■STAGE5 マダラグラム・ポッセカット
    ■あとがきにかえて



    本文

    ■intro.

    任意のサムネイルをクリックすると、映像が始まった。ハンドカメラで撮られていたため、不安定に揺れている。

    平和島駅の改札を出て左、すぐに道路高架の閉塞感の下をくぐり、左手に三番バス停を認める。そこにはすでに目をひく集団が列をなしていた。そのほとんどが黒いスニーカーに色の濃いデニムパンツ、白いシャツに半透明のカッパを羽織っている。みなキャリーケース等の大きな荷物を引きずっている。
    やがて、どこからともなくやってきたバスにぞろぞろと乗り込み、運命共同体のごとく揺られ目的地へと連れられていく。窓からの景色はひどくくすんでいる。遠い空には厚い雲があり、湿気が鼻の奥深くをくすぐる。
    十分もしないうちに目的のバス停に到着する。目前にはボートレース場がある。その隣に、見慣れたチェーン店が軒を連ねる複合商業施設がその存在感を放っている。
    バスから降りたカッパの集団は、その商業施設には見向きもせずに歩道橋を渡りはじめる。それぞれの速度で、思い思いに歩く。
    雨粒が落ち始める。空を見上げると、さきほどまでは遠くにあった暗雲が真上にまできている。カッパの集団はフードをかぶった。
    歩道橋の下り階段まで来ると、正面に雨風にさらされ古びた大きな看板が見えた。その右手奥に広がっている公園の名称が書かれたものだ。
    カッパの集団の足取りが軽く、しかし確かなものへと変わっていく。期待が込められたその闇雲な一歩一歩が、今にして思えば歴史の足跡そのものであることに、感動を禁じえない。
    雨は次第に強くなっていく。ハンドカメラのレンズに水滴が付き、ぐるんと視界が変わったと思うと、映像は途切れた。

    次に映像がはじまると、視界に少し違和感がある。透明なビニールのようなものを通して風景を見ている。雨よけとしてハンドカメラを袋に包んだのだろうか。
    ビニールの皺と細かな水滴の向こうはすでに土砂降りだった。降り注ぐ雨粒に邪魔されてはいるが、画面下部は緑色で、それがかろうじて芝生であることがわかる。
    画面上部には一人の男が立っている。男は手に持った四角い何か——きっと本だろう——を高く掲げて、身振りを交えて何かを叫び続けている。あまりに声が大きく、ハンドカメラに内蔵されたマイクでは音割れがひどく聞き取れない。男の後ろ、画面奥には一人の少年が立っていた。荒れた映像の中でも、どこかで見たことがある気がする懐かしい微笑みをはっきりと感じ取れた。
    画面手前、男が叫び終えた途端に、さらに怒号のような音が響く。耳に障る音割れでしかない音は、どうやら男を取り囲むオーディエンスによるものらしかった。カメラが転回してオーディエンスらしきたくさんの人影を映し出したことで、ようやくそんな予想が立つ。
    カメラが男を再び捉えると、男は手に持っていた本を、もう一度高く掲げた。すると、さきほどまで男を取り囲んでいたオーディエンスたちが男のもとに押し寄せる。男を押しつぶさんほどの熱気と勢いで。少年はその光景を見守るようにじっと立っていた。
    音割れが鳴り続けていた。絶え間なく聴くその音は、やがて雨の音と混じりあい、地鳴りのようになり、耳にこびりついて離れない。
    ここで映像は途切れ、代わりに「もう一度再生する」「他の動画を見る」などのアイコンが表示された。
    映像は終わっているのに、まだ地鳴りの音は鳴り続けているように思える。耳の奥に侵入し、脳にまでこびりついている。

    ——これがライム・パークの前身イベント「ライミン・キャンプ」における伝説の誕生の瞬間だ。サークル「ナード・マス」の代表・星野たすくはこの日、土砂降りの雨によって濡れて開かなくなった本を五〇〇部売り切った。

    暗い部屋の中、PCディスプレイの明かりだけに照らされた俺は、映像のなかで繰り広げられた異様な光景に圧倒され、思わず息を飲んだ。
    あれから五年が経った今でも、飲んだ息は吐き出せていない。




    ★ライム・パークとは?
    ライム・パークは年に二回開催される、ポッセカット(※注1)を持ち寄り競いあうイベントです。既成の枠にとらわれず〈ライム〉を発表できるステージを提供することを目的とし、マス対コアといった垣根も取り払って、すべての人が〈ライム〉の担い手となるイベントとして構想されました。自分が〈ライム〉と信じるものをセルアウト(※注2)してください。アノニマス(※注3)はそれを自由に購入することができます。
    ライム・パークは、いわゆる純ライムからライトライム、ミックス/リミックス(※注4)系まで、実に幅広い層で構成されています。歴史あるサカー(※注5)やミキサー(※注6)が多く参加する一方で、ライム・パークがきっかけとなり結成され、継続的にポッセカットを制作するサカーも増加してきました。アノニマスからの反響も大きく、各方面から注目を集めています。

    ※注1 ポッセカット……同好の志(ポッセ)で集い制作するライム冊子(カット)のこと。
    ※注2 セルアウト……基本的には「売ること」そのものである。さらに言えば「売るために絶え間ない努力を惜しまないこと」である。この姿勢はライム・パークの前身であるイベント「ライミンキャンプ」の中で、伝説のミキサー集団「ナード・マス」によって確立され、当初は多大な反発を生んだが、のちに一般的な姿勢として広く知れわたった。
    ※注3 アノニマス……ライム・パークに訪れる客のこと。
    ※注4 (リ)ミックス……引用を多用してライムを紡ぐ人。引用の参照元がサカーの制作したライムであれば「ミックス」と呼ばれ、ミックスからの参照であれば「リミックス」と呼ばれる。
    ※注5 サカー……オリジナルでライムのポッセカットを制作する人を指す。折に触れてミキサーを見下す。
    ※注6 ミキサー……ミックス・リミックスのポッセカットを制作する人を指す。折りに触れてサカーを見下す。

     

  3. 《二〇一二年三月一一日日曜日、ぼくはアルバイトを無断欠勤して、町が一望できる小高い丘に新しく建設された墓地の中を歩いていた》

    WEB用小説「関係ない系」

     


  4. 印刷のいろは展

    お久しぶりの更新となりました。よしながです。

    しっかし寒いですね! 道路の凍結などでの事故も多発しているそうなので、みなさまご用心ください。

    僕が住んでいる埼玉は日本で一番死亡事故が多いらしいので、日々死なないように怯えながら生活しております・・・。

    現在は、次回の文学フリマに向けて執筆しながら日本語ラップを聴きまくる毎日です。まだにわかの域を脱していませんが、今のところsterussがすごくいいですね。なにげなく風景描写がある日本語ラップに出会うことがあまりないので、そういうものを探していきたいですね。

    と、ここで告知です。

    本日2012年2月3日(金)〜2月5日(日)の間に開催される「印刷のいろは展」に出展しています!

    様々なクリエイターによる展示・物販のブースの中に、BLANK MAGAZINEもブースを構えています。

    ご覧の通り、中編小説「ジェンガの日々」、BOX入りZINEセット「BLANK MAGAZINE SHORT COLLECTION BOOK」、短編集「エポック・メイキング」という、今までリリースしたもののほとんどをなんとか準備することができました。

    「いろは展」の趣旨にもっとも近いのは写真上部の「BLANK MAGAZINE SHORT COLLECTION BOOK」でしょうか。8冊のZINE小説集で、小説のテイストに会わせて様々な画風のイラストレーターにご協力いただいていますので、そのマッチングを楽しんでいただければと。ZINE8冊がBOXに入って1,000円というのは、ZINE市場(と、あえて表現しますが)の相場からすると相当安いはずです!笑

    あとは、写真下部の文庫本「ジェンガの日々」は、この「いろは展」に出しているもので在庫が最後なので、入手するチャンスがもうほとんどないかもしれません。現在BLANK MAGAZINEからリリースしている最長の小説で、価格もワンコイン500円とお手頃なのでぜひ〜。

    写真中央の短編集「エポック・メイキング」は、表紙の銀箔もさることながら、中ページの構成も気を配っています。収録されている3つの小説の「見せ方」の違いに着目していただければと思います!

    以上、BLANK MAGAZINEブースはこのようなラインナップになってます。

    他のクリエイターによる出展も刺激的な作品が多く、きっと脳のデザインを司る部位が何かの電波を受信するはずです!

    「いろは展」全体が「体験」に重点をおいていて、参加すればするほど、話を聞けば聞くほど味が出るようなイベントになっていると思いますので、ぜひぜひ「遊びに」行ってみてください〜。

    では!!

    【リンク】

    参加クリエイターリスト→creative-language.com/profile/

    いろは展公式サイト→irohaten.com

     


  5. 新刊小説「エポック・メイキング」通販!

    11/3(木・祝)の文学フリマで販売した新刊「エポック・メイキング」、通販での販売中です。文学フリマに来られなかった方、遠方の方など、この機会にぜひぜひご注文を!

    「エポック・メイキング」——〈すべての風景が変わる〉黎明と終末のボーイミーツガール短編。表題含む3編の愛と不条理ストーリー集!

    掲載小説を立ち読みする→「エポック・メイキング」 「バニシング・ポイント」 「ハッピー・エンド」

    注文ページはコチラ

    ※注意 別途送料がかかります。注文後、送料込みのお支払い総額をメールでお知らせします。
    発送は文学フリマの翌日以降になります。ご了承ください。

     


  6. 第13回文学フリマ、お疲れ様でした!

    昨日の文学フリマ、サークル参加者の皆様も、来場された皆様も本当にお疲れ様でした!
    我々BLANK MAGAZINEの新刊「エポック・メイキング」もおかげさまでちょこっと売れました。
    部数が伸びなかったことには落胆のような気持ちもまあありますが、1000円という価格を考えると、こんなものなのかもしれません。かといって安くすれば良かったとも思えませんし…。価格設定について語ると、たぶんサークル間で侃々諤々の大議論に発展しかねないので、やめときます。
    ただ、単純に「狙いの違い」という話に収束していくような気もします。
    さておき、文学フリマです。
    こんなブースを構えました。


    前回の文フリで販売したBOXセット、BLANK MAGAZINE SHORT COLLECTION BOOK VOL.03は今回は見送りました。
    増刷が追いつきませんでした。すみません。
    ですので、今回はVOL.02「ジェンガの日々」と新刊であるVOL.04「エポック・メイキング」という〈読み物系〉の商品で臨みました。
    自慢するかのように置いてあるiPadでは、商品の画像をスライドショーにして流しておきました。


    場所を移転しての開催となった文フリの会場の雰囲気は、個人的な感想になりますが、今までの文フリというイベントが持っていた「異質感」が薄れたように感じました。「文学イベント」から「同人即売イベント」になったような印象です。サンシャインクリエイションもあんな感じだったような。
    良いか悪いかで言えば……一長一短ですね。個人的には、とにかく何であれ変わったということについては「良い」と思っています。
    ただ、僕自身は一人で売り子をやっていたので、聞いた話になってしまうのですが、どうやら1Fと2Fでもかなり雰囲気が違っていたようです。
    僕は1Fでした。これは100人中100人が感じたことだと思いますが、ブースの裏のサークルスペースが圧倒的に広くなってました。今までが狭すぎたのでしょうが、これは準備をする上で非常に助かりました。楽でした。
    ただ、その分、会場のホール全体の密度が下がって、閑散とした印象になっていました。設営を終えて椅子に座った瞬間に、のっぺりとした空間が視界を覆っていたのに気がついた瞬間には内心「これはヤバいかもしれない」とちょっと思いました。(人は人がいっぱいいるところに集まります。失礼を承知で言うと、当日に一番広告としてはたらいてくれるのは「ブース前で立ち読みしている人」です。真面目な話、その意味でも立ち読みはものすごく嬉しいです)
    2Fはまだ密度を保っていられたそうですが、それでも今まであった「こもる熱気」のようなものが、会場を変えたことによって薄れつつあるということは言えそうです。
    これが悪いということではなく、結局何が言いたいかというと、その場所に応じた売り方を模索する方向に各サークルが向かえばそれでいいんじゃないかということです。(というか模索していきたいです)

    と、イベントそのものについてはこれくらいにして、買った本について書きます。
    かねてから片手間にすすめていた「文学フリマ小説棚」に掲載していたサークルさんに度々ご挨拶に来ていただき、新刊を交換したり、買っていただいたり買ったりしました。(厚かましくもわざわざブースに取りに戻らせてしまった方、本当に失礼しました……)
    入手した本は以下。まだ読んでないので、内容の感想は後日で。

    ●渋澤怜「渋澤怜第二短編集 蜂と蜜」
    ●二乗天使(ありすうちゃ)「アルペッジョの祝典」
    ●恣意セシル「赤猫」
    ●下町飲酒会 駄文支部(日野裕太郎)「スコシの領分」
    ●+Lantern「魔法」
    ●lapis「lapis vol.5」
    ●佐藤「迷宮図書」
    ●屋台村「ストライプ vol.3」
    (以上、敬称略)

    皆様、ありがとうございましたー!
    (しかし、渋澤怜さんの本はモノとしても完成しているし名前にブランド感もある。何者なんだろうか……?)

     


  7. 「エポック・メイキング」試し読み その3

    タイトル:「ハッピー・エンド」
    著者:吉永勇輝(BLANK MAGAZINE)


    打てばひびくほどの感じやすい心を誇りとする美しい天質も、利欲がすこしでも顔を出すと、窒息することがよくある。
    ラ・ロシュフコオ『箴言と考察』



    一本の、どこまでも続く長い廊下を僕は歩いている。
    道幅は、人が二人やっとすれ違える程度で、お世辞にもそれほど広いとは言えない。ただ天井は一般的な家屋と比べて少し高い。手を伸ばしても届かないが、肩車をして思いっきり手を伸ばせば指先が触れるくらいの高さだ。
    廊下の内装は歩く中でときおり変化する。西洋風の装飾的な内装の時もあれば、退廃的なメタリック調の時もある。今はナチュラル風な淡い木目と、白塗りの壁が交互に並べられている。とても見慣れた光景だ。どこか、嘘くさくもある。
    奥へと視線をやると、終わりのない通路が果てで消失点を結んでいるのがわかる。どれだけ歩いても、それは変わらなかった。

    風景が変化することを忘れた頃に風景が変わる。風景と風景の継ぎ目はいつも唐突にやってきて、変わる瞬間までそれに気づく事はない。ある風景の中を歩いている間、次の風景を遠目にも見る事はできなかった。変わる時は一瞬で視界すべてが切り替わる。
    そして、風景が変わった瞬間には、見知らぬ人間が隣に立っていることが多い。立っているのは女性であることが多い。僕が男だからなのかは不明だが、それが誰であれ、男性よりも女性であったほうがありがたい。当然だ。

    しかし、現在は一人で歩いている。しばらく隣に誰もいない。だから天井に触れることもできないし、久しく会話もしていない。声の出し方を忘れそうになるので、時折意味もなく声をあげる。それは獣を模した声であったり、誰かに助けを求める声であったりもした。声はもれなく、どこにも漏れることなく、あえなく虚空に散った。生まれてから今まで、空を見たことなどないが。
    僕がどれだけ助けを求めようが助けなどくるはずもないし、そもそも助けが必要な状況でもなかった。限りなく不自由な身分ではあったが、実感としては何一つ不自由していない。生まれた瞬間からこうだったのだ。いったい、他の誰の人生と比較しようと言うのだろう。他の誰かがそもそもいないのだから。いたとしてもろくな人間と会ったことがない。僕は僕の人生に納得するしかない。だからこうして歩くだけ。

    いつか僕の歩くだけの人生も終わる。他の何を避けようとも、死ぬことだけは避けられない。僕にできることは、死ぬまで歩くだけだ。
    人生が終わる瞬間に、僕はどんな風景の中に居るのだろうか。それは素晴らしい風景だろうか。それとも、もう二度と生まれてくる気がなくなるような、おぞましい風景かもしれない。僕は死にたいと願うような弱い人間ではないが、死ぬ瞬間の風景は死なないと見られないので、少し気にはなる。死にたくはないが。
    僕にとっての素晴らしい風景、ハッピー・エンドとはどのような終末だろう。生きてきた記憶が走馬灯のように思い出されて、嬉しくなる終末だろうか。それとも、死ぬことにさえ気がつかずに存在意識が消滅していく終末だろうか。
    その瞬間に、隣に誰かがいるのだろうか。孤独死は少し淋しい気もする。でも残される誰かの哀しみを想像すると、やりきれなくなるので孤独死の方がいいような気もする。一番いいのは、僕が死ぬ間際だけありったけの涙を流してくれて、僕が死んだあとにはけろっと僕のことを忘れてくれることだ。そうすれば、僕も気持ちがいいし、看取る誰かのその後の人生にも影響がない。
    人の死というのは簡単に忘れられるものなのだろうか。僕自身、誰かの死に居合わせたことがないのでよくわからない。

    ふと下を見ると、バラバラに崩れたジェンガの山があった。木目調の、シンプルなものだ。歩いている時には気がつかなかったから、おそらく今この瞬間に現れたのだろう。
    今この瞬間に現れた、それがなにを意味するか。それは「風景が変わる瞬間」がやってきたということだ。
    急に廊下の明るさが変わる。目に優しい明るさが奪われ、フラッシュが焚かれたように眩しくなったかと思えば、前後さえ不覚になるほどの暗闇になる。どうにも明るさが安定しない。
    次第に目が慣れてくると、ちょうど切れかけの街灯のような具合で付いたり消えたりして、不安定ながらも歩けないことはない程度にはなった。
    今までは、このような不安定さはなかった。変わる時には一瞬ですべてが変わって、それでいて風景は安定していた。しかし今回は違った。まるで「不安定であること」そのものがコンセプトであるかのようだ。
    その不安定さは廊下の壁面にも言えた。今まではテイストの違いこそあれ、そのテーマ性というかコンセプトがはっきりとしていたように思う廊下のインテリアは、まったく統一感のないものになっていた。和洋折衷のような、テイストが混濁することへの美意識もまるで感じられない、単なるカオスだった。
    今までのように簡単には説明がつかない。まったくつかみどころのない風景を説明する言葉を、僕は見つけることはできなかった。というよりも、もはや形容しようという気の起きない風景だった。何もかもが複雑すぎる。
    目の前に広がる風景(とは言っても、細長い一本道であることに変わりはないのだが)は、僕を甚だ不安にさせた。いや、風景に僕を不安にさせるという意思がないのであれば、逆か。僕が風景で甚だ不安になったと、そう言うべきか。
    不意に、廊下が明るくなる。気付けば隣に一人の女性が立っていた。









    ……つづきは本誌「エポック・メイキング」内の小説「ハッピー・エンド」で!

     


  8. 「エポック・メイキング」試し読み その2

    タイトル:「バニシング・ポイント」
    著者:吉永勇輝(BLANK MAGAZINE)

    恋をし合っている二人が、一所にいることを退屈に思わないのは、明けても暮れても、自分たちの話ばかりしているからだ。
    ラ・ロシュフコオ『箴言と考察』


    1

    僕の知り合いは皆死んだ。「バニシング・ポイント」と呼ばれる殺戮者に、体を切られたり、首を縛られたり、蝕まれたり、食い尽くされたりして死んだ。
    恋人や家族といった大事な人を目の前で奪われる失意の中で殺された。
    しかし、胃を糸で切るような悲痛の裏で、むしろ誰もが安堵していた。自らに非はないと。圧倒的な悪意の前で、人々はなす術がない。どうしようもないのだ。見ず知らずの赤の他人に殺される可能性だって、ゼロではないのだ。そんなことをいちいち気にしていたらまともに生きていけないが、かといってまったく考慮しないのも考えもので、人間誰しも、少しは「今日死ぬ可能性」を思考の奥の底のそのまた片隅に保有しているものだ。
    それだけ人間が生きているという状態は、そもそも風前の灯のような不安定を抱えている。人はいつでも人を殺すことができるし、それをかろうじて押し留めているのは不確かな倫理観でしかない。(人を殺すことが是とされる倫理観が世界を覆ったことだってあるのだから)
    人を殺すことのできない倫理観を持つ人は、人を殺すことができる人の持つ、別種の倫理観が自分から遠く離れた果てにあることに、恐怖して、やがて安堵するのだ。自分は責任を取らずに済むと。

    または、こうも思ったかもしれない。
    自分がこんな簡単に死ぬわけがない。ナイフが首の皮を一枚、すらりと裂いたその瞬間に誰かが助けにきてくれるだろうと。
    なぜなら世界は正常に機能しているはずなのだから。誰もが救いを信じてやまなかった。しかし、来るはずのない救世主は来ない。
    そうして、人々は「バニシング・ポイント」に殺されていった。

    僕はそうして死んでいった人々を笑うことはできない。
    なぜなら、人生はそれほど悲劇的には作られていないはずだから。少なくとも「知り合いが全員殺されること」が異常で、まさしく悲劇的である程度には、人生は喜劇的だ。そう信じているのだ。
    僕だってそう信じていた。この状況が異常であると判断できる程度には、喜劇的な人生を信じていた。その点では、殺された一億の人間との間に差はない。
    しかし「バニシング・ポイント」は僕だけを生き延ばした。それがなぜかなんて知らない。知りたくもなかった。
    僕がそれを知ったところで、僕の命が握られていることに変わりはない。「バニシング・ポイント」が僕を生かしているから僕は生きているわけで、「バニシング・ポイント」が僕を殺したら、僕は死ぬのだ。それ以上でも以下でもない。
    知り合いを殺されて、殺されて殺されて、失意さらに絶望へと心が傾いても、僕は死にたくなどなかった。
    「なぜ僕を殺さない? いっそ殺してくれ!」などとは、たとえ口が裂けたって言えない。
    だって、どう考えたって死ぬのは怖い。死ぬことはどうしようもなく、染み付いた約束事だ。不安定な人生の中で唯一、死は確固たる未来として待ち構えている。できればそれを避けたい。死なずに生きたい。そう思っていた。
    考えてもみれば、知人の死の責任の所在はともかく、自らの死について人々がどう考えたかと思案を巡らせてみると、すでに殺された知り合いの人々も「いっそ殺してくれ」とはまず言わなかったことにはたと気づいた。(何事にも多少の例外はあるのだと、深く考えないでもらえるとありがたいが、)「いっそ殺してくれ」と宣(ルビ:のたま)ったわずかな人間も、バタフライナイフが突き刺さった自らの胸部をすがるように見て叫んだのは「痛い……!」だけだった。「やっと死ねる」とは言わなかった。
    それは見事な、死への抵抗だった。涙を流して賞賛すべき、醜い生命の躍動だった。そう、誰だって痛いのは怖い。死にたくはない。さらに欲を言えば、痛みを持たずに生きたい。

    僕は死なないために生きている。僕が唯一成し遂げたいこと、それは、死なないことだけだ。しかし、それは無理な注文だった。死にたくなければ、そもそも生まれなければよかったのだ。










    ……つづきは本誌「エポック・メイキング」内の小説「バニシング・ポイント」で!

     


  9. 「エポック・メイキング」試し読み その1

    タイトル:「エポック・メイキング」
    著者:吉永勇輝(BLANK MAGAZINE)

    世の中には時として、少々狂気にならないかぎり、うまく切り抜けられないたぐいの災難がおこる。
    ラ・ロシュフコオ『箴言と考察』


    1 いつだって言葉が

    いつだって言葉が僕を苦しめる。言葉なんてなければ、僕たちはけっこううまくやっていられたんじゃないかと思う。
    だってそうだろう。言葉なんてなくても腹は膨れるし、性欲も満たせる。眠っている時には当然言葉など要らない。
    言葉があって初めて満たせるものなんて、虚栄心くらいのものじゃないか。
    そうだろう?
    と、僕は言葉で訊ねる。


    2 恋人は馬鹿でかわいい

    僕には恋人がいる。キューティクルが綺麗な黒髪と、ふわふわして落ち着いた服装と、少し馬鹿っぽい喋り方がとてもかわいらしい女の子で、僕の好みだ。
    僕が落ち込んでいる時には本当に親身になって相談に乗ってくれてとても助かるし、恋人が落ち込んでいる時には僕が適当に「うん。へーそうなんだ」と話を聞いているだけで「ありがとう。お陰で楽になった」などと勝手に立ち直ってくれるので、とても扱いやすくて助かる。
    デートで一緒に歩いている時にも「ほら見て! あの雲、ちょっとおいしそう」などと勝手に盛り上がってくれるので、僕が「なるほど。たしかに」と適当な相槌を打ってもいかにも楽しい会話らしくなるので助かる。
    セックスをする時にも、僕が前後に動いているだけで勝手に満足そうな素振りを見せてくれるし、僕が疲れて動かずにいると恋人が動いて勝手に気持ちよくなるので助かる。
    うまくやっていけると思う。


    3 エポック・メイキングとは何ぞや?

    僕が初めて「エポック・メイキング」という言葉を聞いたのは、かれこれ二十年も前になるだろうか。それはつまり幼稚園に通っているような幼い頃を指すのだが、おばあちゃん子だった僕はいつもおばあちゃんの膝の上にいた。
    いろいろと話を聞く中で、特に僕の印象に残っているのが「えぽっく・めいきんぐ」の話だった。なんでも、人間は生きているうちに「えぽっく・めいきんぐ」というものを作らないと死後におばけになってしまうという、当時の僕からしたらそれは怖い話だった。
    「おばあちゃん、それで、えぽっく・めいきんぐってなんなの?」
    「それはね、作ってみないとわからないんだよ」
    「わからないのに作るの?」
    「そうだよ。怖くてもね。男の子なんだから」
    「わからないのに、作れないとおばけになっちゃうの?」
    「そうだよ。だから、生きているうちはずうっと頑張らないといけないんだよ」
    「おばあちゃんも頑張ったの?」
    「おばあちゃんは運が良かったんだよ」
    「おばあちゃんのえぽっく・めいきんぐって何なの?」
    おばあちゃんは細くほとんど開いていない目で、優しい視線で僕を見た。
    その意味が、今の僕にはわかる。


    4 蜜月の日々

    光陰矢の如し。幸福な日々はあっという間に過ぎる。それは愛に生きた日々であり、愛以外のものには生きなかった日々である。
    僕と恋人は2年間の交際を経て関係を成熟させて、結婚にいたった。
    結婚してからも幸福は続いた。仕事だってなんてことないくらい頑張れた。
    しかし、そんな日々が長く続くはずもない。それが不幸の訪れだとか、幸福の唐突な終わりでないにしても、何かが終わろうとする予兆の到来ではあった。
    晴れの日々が当たり前だと思ってしまえば、曇った時点でアウト。
    僕の生活は次第に曇り始めていた。











    ……続きはぜひ、本誌「エポック・メイキング」で!

     

  10. 告知です。
    11/3(木・祝)に行なわれる「文学フリマ」で、新刊を販売します。
    画像はまだ仮置きですが、だいたいこんな表紙です。実物はもっとスゴいです。


    タイトル:「エポック・メイキング」
    A5変形・全98ページ
    価格:1000円


    「エポック・メイキング」「バニシング・ポイント」「ハッピー・エンド」の3編が入った短編集です。すべての小説のテーマは「ボーイミーツガール」です。つまり、愛と死と不条理です。

    すなわち、「♡」と「…」と「・」です。
    二つの単語の間に「♡」をおけば、それらは結ばれます。
    二つの単語の間に「…」をおけば、沈黙が流れます。
    二つの単語の間に「・」をおけば、不条理に阻まれます。

    そんな小説です。

    掲載小説を立ち読みする→「エポック・メイキング」 「バニシング・ポイント」 「ハッピー・エンド」